さっきまで降っていた雨が上がって
夜、近くの県道沿いのコンビニの明かりを目指して
ボクは歩いている。
季節は春と夏の真ん中あたりで、風はまだすこし冷たい。
歩きながら口笛を吹く。好きな曲なんだけど
タイトルが思い出せない。でも大好きなその曲を。
口笛につかれたら、歩きながら歌う。
おぼろげな歌詞をおおきな声で。
春からはじまった新しい生活は、思っていたよりも平凡で
期待も希望も思い出になりそうだった。
教室の窓から見える校庭の鉄棒。
授業中の先生の声。クラスメイトのひそひそ話。廊下のきしむ音
休み時間の後、ボクは教室に戻らず階段を上がる。
ボクのいない教室の沈黙をひきずりながら
階段を上へ上へ 屋上へ。
頭の上には青い空。寝転がって空を見る
目を閉じていても瞼の裏がまぶしい。
ボクの好きな歌を歌う
口笛を吹く 思い出せない歌詞を
でたらめに歌う。口笛を吹く でたらめに歌う。
たばこを吸ったことがないボクは
煙が青いのかさえ分からない。
コンビニに近づいて、
まぶしい蛍光灯の明かりで
長い影が出来る。
見上げた空は濃い紫色で
月のあかりは優しい。
口笛の音が夜に溶けていく
悪い予感なんてあるわけないさ
夜の中から聞こえてくる声
雨が上がったばかりの道路に
車のヘッドライトが当たると
アスファルトが花火みたいに光る。
ボクの好きな歌 ボクの好きな人が歌ってる
今もどこかで歌ってる。
期待も希望も夢も思い出す事が出来る。
ボクの好きな歌をボクの好きな人が歌っている。
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